[マガジンVol24]人と上高田と商売について語る

心にしみる旨い酒
地酒屋マチダヤ、ここにあり

味ノマチダヤ 木村賀衛さん(62歳)

 上高田1丁目、閑静な住宅街の一本道。日中も人影まばらな上高田本通りに、酒屋「味ノマチダヤ」がある。店先には赤や緑の日本酒ケースがうずたかく積まれ、店の男衆がテキパキと運んでいく。おいしい地酒を求めて、国内外からの客人は後を絶たない。社長の木村賀衛さんは、父の代から商売を続けて早60年。家族とともに働き、この地で暮らす木村さんに、上高田について商売について語ってもらった。 

 「味ノマチダヤ」の店内は、薄暗く肌寒い。見たこと聞いたことのない酒瓶がずらりと並び、突き当たりの冷蔵庫には全国の日本酒が鎮座する。純米酒や吟醸酒のほか、焼酎、ワインなど常時1,700種類を取り扱うが、品ぞろえ以上に力を入れるのが品質管理。日本酒はとても敏感な酒である。とりわけ、その土地の米と水で作られる地酒は、地方の小さな蔵元が多い。杜氏(とうじ)が手塩にかけて作った酒を冷蔵車で運び入れ、光を当てないよう静かに低温で保管することに細心の注意を払う。「いい状態でお客様に飲んでもらいたい」と社長・木村賀衛さんの言葉は歯切れよい。
もともと祖父母は麻布で八百屋を営み、父の代から上高田で酒屋をはじめた。4人兄弟の長男。いずれ自分が後を継ぐと思った。大学卒業後は東急ストアに入社し、野菜売り場の担当に。旬の野菜を使ったレシピを貼りだすなど、消費者への工夫をあれこれ試みた。「どんな人に、どんなものを、どの価格帯で提供するか」。現在もマチダヤで実践するマーケティングの基本は、この頃に身につけた。

▲【味ノマチダヤ】中野区上高田1-49-12 TEL03-3389-4551 10:00~18:30
火曜定休「楽しく働く!」がモットー。妻、娘も協力、22人で店を切り盛り!!

 子どもの頃、上高田本通りは八百屋や魚屋など近所の買い物客でにぎわい、酒屋だけで5軒あった。しかし、そのほとんどがコンビニエンスストアへ。商店街がさびれていくことは悲しい。しかし、「黙っていても、お客様は店に来ない」ことは身を以って知っている。父のもとで働き始めた頃、瓶ビールを扱うふつうの酒屋だった。20年前、社長を引き継ぎ、店先に立てかけていた大手有名酒のノボリを取り外した。自分の店の看板を掲げ、「ほかとは違うことをしよう」と心に決めた。そのひとつが「焼酎メモリーカップ」。焼酎をカップ酒の容器に入れ、お湯を注ぐ目盛を付けて販売。カップには蔵元ごとにオリジナルデザインを施して、すべて250円!! 爆発的に売れた。その後、地酒をカップ酒にするなどマチダヤの看板商品に。「蔵元と協力しながら、手頃な価格で日本酒を楽しめる企画を今も考えているよ」と木村さんの表情がやわらぐ。
 日本酒をたしなみ、翌朝に飲みすぎでいやな思いをした人は多い。米が不足した昭和のはじめ、水とアルコールを添加し、糖類や酸味料などを加えて大量に酒を作る方法が編み出された。そんな酒は、今も世に出回っている。しかし、本当の日本酒は、米の甘みとほのかな香りが口に広がり、旨味がある。だからこそ、多くの人に本物の味を知ってほしいと切に願う。「今って、食卓でお父さんが日本酒を楽しむ風景を子どもたちが知らない。だから、酒を飲まない若者が増えているのかもね…」と木村さんの話が途切れた。
 昭和小(現白桜小)、五中で学び、3人の娘も上高田で育った。1歳になる初孫も、静かで住みやすいこの寺町で育ってほしいと願う。愛着ある地元だ。「わざわざ不便な上高田まで酒を買いに来てくれるのだから、あちこち寄ってもらいたい」。日本の文化である日本酒。その旨さを伝えながら、地元との交流…誰もやったことのない新しい試みが見逃せない。

▲【味ノマチダヤ】中野区上高田1-49-12 TEL03-3389-4551 10:00~18:30
火曜定休「楽しく働く!」がモットー。妻、娘も協力、22人で店を切り盛り!!

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投稿日時 2012-12-01

カテゴリー Vol24, おこのみっくすマガジン

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