鉄道史異聞・車掌物語

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第2話

■主役を差し置き、編集長・藤原のご挨拶から。昨年12月、とあるご縁で中野の中学校1年生20数名に、「働き甲斐・今の職業(編集者)を選んだ理由」というテーマのお話しをする機会を戴きました。私の主旨の一番は、まず「食べるために仕事があり」、二番は「それでも志なくば生きる甲斐なし」といったところでしょうか?その後、たくさんの子どもたちから感想文をいただいて、不覚にも涙することに。そのくだりはともかく、飯塚さんのような人こそ、仕事に立ち向かう揺るぎない姿勢・仕事魂の原点を語れる「人物」と、私は思います。「車掌」に託す飯塚晃さんの心映え、第2話を読者の皆さまにお届けできますこと、編集屋冥利にて。 46_30-31_01

 

藤原●飯塚さんの車掌への思い、中野の町の方たちから大反響ですよ!そもそも今はどちらにいらっしゃるの?から始まって<当然、男のなかの男、ではなくて車掌のなかの車掌●東京車掌区長は東京駅におられます>とお答えするわけですが、この連載を読んでいる人が大半なので、妙に納得顔で、すごいねぇ~、頑張って!とひとしきり。ところで次回のネタは?と聞かれるわけです(汗)
飯塚●ご苦労様でした…それじゃネタばれしているわけですか??
藤原●私も編集者のはしくれ、次号をお楽しみにと逃げまくりましたよ(笑)というわけで、第2話は、前回のお約束通り、車掌の名前の変遷やらイメージカラーについてお話しいただければと思います。
飯塚●わかりました!明治5年から車掌は「車長」と呼ばれていた。その後、明治33年に鉄道営業法という法律が公布され、この時に「車掌」という職名が制定されたところまでお話しました。この時代は、列車本数や連結両数も増え、列車もすでに一般化していて、車内秩序が乱れることもあったそうです。そこで登場した車掌が「乗客保護車掌」です。
藤原●時代の変遷に応じて、車掌さんにもいろんな役割の職制が登場するのですね?
飯塚●「乗客保護車掌」は別名ガールドと呼ばれ、任務は、「常に客車内を巡回し、特にスリ及び鉄道法規違反者並びに乗客に危害を加え、又は、迷惑を及ぼす恐れのある者の取り締まりにあたる」という…
藤原●列車内の警察官みたいな?
飯塚●まあ、その走りと思っても間違いではないですよ。ガールドは、周りからも存在がわかるように、赤色の腕章をしていました。車掌の赤色は、元を辿れば車内秩序を保つための色であったわけです。
 
▲記念に集められた腕章や徽章は「車掌魂」の想い深く、今も色あせることなく輝く

▲記念に集められた腕章や徽章は「車掌魂」の想い深く、今も色あせることなく輝く


▲東京駅ホーム風景(土井栄作品展「昭和の風景写真」より)

▲東京駅ホーム風景(土井栄作品展「昭和の風景写真」より)

藤原●今でも赤色の腕章をしている車掌さんを目にしたことがありますが、ある意味すごく重たい色だったのですね。
飯塚●JR東日本では、車掌のシンボルである赤い腕章は、腕から胸につける氏名札にその赤色を移しています。でもね、見方を変えると車掌のシンボルカラーは赤色ではないのです。
藤原●へぇ~! それはまた、いったい何色でしょうかね?
飯塚●鉄道には鉄道電報というものがあって、電報の文字数を少なくした「電略」と呼んでいるものには、様々な短縮された言葉があります。例えば、中野の電略は「カノ」で、「なかの」の文字の一部を使用しています。この電略で車掌のことを表すと「レチ」となります。これは、実は「列車長」の略なのですが、列車長は赤色の腕章ではなく、青色の腕章をしていました。
藤原●またまた、初耳…列車長という方がいらしたのですか?
飯塚●列車長は、明治45年に新橋から下関に向けた初の特別急行列車(後の富士号)を走らせることにあわせて登場しました。レチ、すなわち列車長は、トレインマスターと呼ばれ、英語に堪能で且つ最高のおもてなしができる人材で、世界列強の国際列車に負けない特急国際列車の最高責任者としての自負と品位を備えていた車掌で、シェフ・ド・トラン(フランス語)の文字が刺繍された青色の腕章と白い手袋で乗務していました。
藤原●?料理長?みたいなネーミングですね。
飯塚●今も変わらない車掌のあるべき姿は、お客さまに安全で安心して列車をご利用いただくために、全力を尽くしていくということだと思っています。そのためには、まず「青色」姿勢のおもてなしという心を持って、お客さまや列車内の状況を把握したうえで、必要に応じて「赤色」姿勢でお客さまの安全を確保し、安心して列車をご利用いただくという行動こそが車掌の大きな役割なのです。
藤原●奥が深い…。
飯塚●私なりの解釈でさらに思うのは、列車に乗るとその車掌の姿や顔、そして人となりまでもがお客さまに自然に伝わるような、親近感を感じていただけるような仕事が理想であると思っています。
藤原●なんか、しみじみしてきたなあ(笑) どの仕事にも、きっとやりがい、思い入れがあればこそ、なんでしょうね。車掌のイメージカラーが、「青色」を基本として、「赤色」もあわせ持っているということ、よくわかりました。
飯塚●これらの話しは、古臭い言い方をすると「車掌魂」ということになりますが、現代の若手車掌には、スキルもそうですが、このマインドを継承したなかから、新たな「車掌魂」を生み育てて欲しい。実際に列車に乗るまでの教育から乗車経験の積み重ねと、彼らも泣き笑いあり、日夜奮闘中です。それでは、次に車掌魂が発揮された、いくつかのエピソードをご紹介しましょう。
藤原●ちょ、ちょっと待った!ストップ!緊急停止です。いよいよお話しは佳境に。次号でお伺いしますのでしばし、お待ちを!
飯塚●急ブレーキばかりで乗り心地はイマイチですね。仕方ありません、ご乗車の皆さま、どうぞご容赦を(笑)

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投稿日時 2017-02-12

カテゴリー Vol46, おこのみっくすマガジン

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