おこのみっくす編集部ライターによるラリー対象メニューの実食レポートを掲載中です♪
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そば屋で学ぶ「社交的に場を囲む」というスキル
冷やっこ〜い編@満るゐそば店
器のものを自分やテーブルにこぼすのが嫌で、そばを食べる時など、極度にうつむく癖がある。人前だとそれは、周囲に「壁」をつくってしまう態度なのだが──
「これ、おもちですか?」
急に声をかけられてのけぞった。店の奥さんが正面に立ち、見事な笑顔を浮かべつつ、白い、四角いものをこちらに見せている。脳内で何かが焼けて膨れ上がったが、言葉にする前に我に返った。奥さんが手に持つのは「食べ歩きラリー」のシール台紙だ。間違いようがない。
(いかん、食べることに没頭している場合か。仕事、仕事)
奥さんと二言三言交わしてから、しかし、また下を向く。
「冷やしヘルシーそば」は厚切りのトマトやナスが平たい器から盛り上がった、重量級の一品。
つい口が迎えにいってしまうのだ。
「そんなこと言わなくてもいいのにねぇ」
(え!)猫背のまま顔が上がる。満員の店内。通路をはさんだテーブルで、それまで静かに食べていたご婦人が、今、するどい批評を飛ばしたような……。
(重量級って、ほめてるんですよ?第一、口に出してないし)真意をはかりかね、続きを待つこと10秒。
分かった、テレビだ。
ご婦人ら3人は、互いの顔の見える話しやすい姿勢でそばを食べながら、天井近くから降りてくるテレビの声にも反応し、「そうよねぇ」「ま、張り切ってるってことじゃないの?」などとやっている。
──ふっと、緊張が和らいだ。
やはり、そばをいただく構えはああでなくてはいけない。
ほかのテーブルも、「そばっ喰い」の先輩と思しきみなさんは、箸を休めることなく自然に談笑している。ピンクのTシャツを着こなす店の若だんなが突然割り込んでも、誰かみたいにのけぞったりしない。
(その場の誰に対しても壁をつくらない。昨今のカフェでは味わえない雰囲気だな……)
「これ、余ったつゆに入れて飲んでください」
目の前30cm先に、そば湯を手にしたピンクT氏の顔。猫背が一気に伸びる。
(び、びっくりしたぁ)
最後のトマトをゆっくり飲み込み、気を落着けた。(ライターH)